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解題『ドリトル先生の郵便局』(18)──秘密の湖へ
 ドリトル先生がハーマッタン岩から戻って来て手紙の整理に当たっていると、泥で書き付けられた風変わりな手紙が出て来ました。先生は手紙を投函した太古の亀・ドロンコへ会いに行くため、アフリカ大陸の奥地にあると言う“秘密の湖”ジュンガニーカ湖を訪ねます。

ジュンガニーカ湖の主・ドロンコ
ジュンガニーカ湖の主・ドロンコ
(『ドリトル先生の郵便局』挿絵、ヒュー・ロフティング画)

 ドロンコの手紙にはファンティポ郵便局でアホウドリのカタカタメが天気予報を行っている噂を聞いたこと、自分は旧約聖書の創世記に書かれたノアの大洪水の生き残りで方舟に乗ったこと、本当は自分から郵便局へ出向きたいがリウマチで遠くへ行けないことなどが書かれていました。しかし、手紙には住所が書かれていなかったのでドロンコを訪ねようにも手がかりは何もありません。
 数日後、巨大な水蛇が郵便局を訪ねてドロンコからの2通目の手紙を携えて来ました。その水蛇はドロンコと同じジュンガニーカ湖に住んでおり、先生が希望するならばジュンガニーカ湖までの道案内をすると言うので、先生はジップ・ダブダブ・トートー・チープサイドを連れて丸木舟でアフリカ大陸の奥地にあるジュンガニーカ湖を目指す冒険に出発しました。
 川を遡上することまる四日かけてようやくジュンガニーカ湖にたどり着くと、巨大な亀が一行を出迎えました。この亀こそが、太古の昔から“秘密の湖”ジュンガニーカ湖で生き永らえるドロンコなのです。

「ドロンコ」というのは「オシツオサレツ」と同様に井伏鱒二が和風の名前を当てたもので、原文では"Mudface"(マドフェイス)とされています。直訳すれば泥顔(でいがん)と言ったところでしょう。
 チープサイドはドロンコの第一印象を「クリミア戦争の老兵」に例えていますが、クリミア戦争は1853年から1856年の出来事なので本作の時代設定より十数年は先の出来事です。ここでもロフティングお得意の時代錯誤(アナクロニズム)が発揮されていますが、アメリカでストークスの廃業後に出版を継承したリッピンコット版では初版の"Crimean War"が"Old Indian War"、つまり英仏がアメリカ大陸のオハイオ植民地を巡って争ったフレンチ・インディアン戦争(1755 - 1763)に修正されています。
 ところで、ロフティングがここで敢えて時代錯誤を用いた「クリミア戦争の老兵」は、特定の人物をイメージしていると考えられます。それは恐らく祖父のジョン・トーマス(John Thomas Lofting, 1832 - 1915)でしょう。チープサイドの評で、従軍経験を語らせると「思い出話をさせたが最後、やめさせる訳には行かない」と言うあたりには、妙な迫真性が感じられます。

 ドロンコが言うには、このジュンガニーカ湖の底には太古の昔に世界中へ版図を拡げた独裁者・マシュツ王が君臨し、繁栄を極めたシャルバの都があるのだそうです。そのマシュツ王の帝国が創造主の怒りに触れて水没し、ドロンコはノアの方船に乗せられて生き残った際の物語は幾夜にも及ぶ長大なものでしたが──ここでは読者に対してその全容は語られず、後に第10巻『秘密の湖』で語られることになります。
| 84oca | ドリトル先生の郵便局 | 07:14 | comments(0) | trackbacks(0) |

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