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ある在野の文学研究者の行動記録。

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解題『ドリトル先生の郵便局』(17)──ニャムニャム酋長の受難
 白ネズミの活躍でダホミーの侵攻を退けて危機を脱したニャムニャム酋長でしたが、娘婿のオボンボが反乱を煽ったりもう一つの強国・エレブブが攻めて来たりと相次ぐ受難に見舞われます。

村人に演説するオボンボ
村人に演説するオボンボ(『ドリトル先生の郵便局』挿絵、ヒュー・ロフティング画)


 ダホミーの侵攻が白ネズミ率いるネズミの大群に敗れて退却した翌朝、ドリトル先生はハーマッタン岩を訪れてヘラサギの親子に真珠を返し、ニャムニャム酋長の村へ戻りますが村には新たな問題が持ち上がっていました。ニャムニャム酋長の娘婿のオボンボは野心を抱いて村の人々に年老いた岳父が無能だから我々は貧困にあえいでいるのだと反乱を煽っていたのです。
 しかし、白ネズミがダホミーの侵攻を退けたことでニャムニャム酋長の統率力が再評価され、オボンボがいつものように広場で演説を始めると村の人々は口々に「シッシッ」とオボンボに演説をやめろと言う仕草を始め、遂には石や泥が投げつけられたのでオボンボはジャングルの奥へ逃亡してしまいました。
 騒ぎが収まると、先生はニャムニャム酋長を連れて再びハーマッタン岩を訪ねました。そして、岩の近海に住む鵜に「これから真珠の入った牡蠣が見つかったら村の人々が真珠を採れるように水揚げして欲しい」と要請し、ニャムニャム酋長にはここで1日2回、真珠が水揚げされることを説明します。真珠が採れるようになってからというもの、ニャムニャム酋長の村はそれまでの貧困を脱して市場が立ち並ぶ活気に溢れた村となり、近隣の国からも多くの商人が訪れて交易が盛んになりました。
 ところが、ダホミーと並んでニャムニャム酋長の村を脅かしていた隣の軍事大国・エレブブの首長(エミル)はハーマッタン岩で真珠が採れると聞きつけて大部隊を差し向けて村を制圧し、遂にニャムニャム酋長の領土は一区画も残らずエレブブに編入されることになってしまったのです。この事態に、オボンボは村からジャングルへ逃げ込んで来た村人を相手に「お前たちが年老いて無能な酋長と胡散臭い西洋人の戯言を真に受けたから村が侵略されたのだ」と辻説法を繰り返すのでした。

エレブブ国はダホミーと異なり架空の国家です。但し、君主の称号がエミル(Emir)であることから早くにイスラム教が普及した北ナイジェリアの部族がモデルになっていると考えられます。岩波書店の井伏訳では固有名詞扱いで「エミル王」、また角川つばさ文庫の河合訳では「総督」と訳されていますが、どちらも正確な訳とは言えません。"Emir"は中東の首長、例えばアラブ首長国連邦(United Arab Emirates)を構成する各国の長のようにイスラム教国の首長、古い呼び方では「土侯」のことです。「総督」は君主から任命される地方(特に植民地)の長官が任命される役職ですが、このエミルが宗主国の君主から君主の名代として任命された総督であるとは考えにくいでしょう。

 エレブブ国のエミルは先生とニャムニャム酋長を捕らえて投獄し、ジップはエミルの足に噛み付いたので鎖に繋がれてしまいます。旧ニャムニャム領だったハーマッタン岩は「エレブブ国真珠採取場」と改称されてしまいました。
 先生がエレブブの監獄に入れられて真っ先に閉口したのは、窓が無いことでした。先生の上着のポケットに隠れていた白ネズミがロープを噛み切って先生の拘束を解くと、すぐさま先生は白ネズミに監獄のネズミ穴から外に出て難を逃れたダブダブに伝言をするよう頼みました。白ネズミから先生の伝言を聞いたダブダブはすぐにハーマッタン岩へ飛んで、鵜に「もうすぐエレブブの兵士が来るので真珠の水揚げは中止」と指示を伝えました。ダブダブが伝言をする前に水揚げされた牡蠣には安物の真珠しか入っておらず、伝言の後には鵜が一斉に真珠の入った牡蠣を海へ戻したのでエレブブの兵士は真珠を持ち帰ることが出来なくなってしまいました。
 兵士から真珠が採れないことを報告されたエミルは激怒し、監獄に押しかけて先生を激しく罵倒しました。これに対し、先生も自分の行いを恥じるよう激しい口調でエミルを攻撃し、エレブブの思い通りに真珠が採れることは絶対に無いと断言しました。エミルは先生が音を上げて真珠を採る方法を教えるまで水も食糧も一切与えないと通告し、監獄を後にします。しかし、ネズミ穴から抜け出した白ネズミがダブダブに頼んで食糧や水を入れてゴム栓をしたクルミを用意してもらい、それを獄中へ運んだので先生はいつでも必要な時に水も食糧も口にすることが出来ましたし、白ネズミは石鹸屑も運んで来たのでひげ剃りも出来ました。
 10日後、そろそろ哀れな西洋人が餓死した頃だろうと思いエミルが再び監獄を訪れると、先生は至って健康でひげも綺麗に剃っていたのでエミルは「この西洋人は得体の知れない妖術を使っているに違いない」と空恐ろしくなりました。エミルは先生の目を見ないようにしながら「ハーマッタン岩から撤退するのでこの国から出て行って欲しい」と懇願しますが、先生は監獄に窓を取り付けることとニャムニャム酋長を解放しハーマッタン岩を含む掠奪した全ての土地を返還することを条件提示します。弱りきったエミルは全ての条件を受け入れてその日の内に先生とニャムニャム酋長を解放し、村から撤退したのでした。
 こうして、ニャムニャム酋長の村はダホミーとエレブブの脅威から解放されハーマッタン岩での真珠採りも再開されることになりました。先生はニャムニャム酋長からお礼として最高級の真珠を贈られますが、先生はガブガブが食べてしまった芽キャベツの弁償をする為にその場で手紙を書いて真珠をスキマーに渡し、リンカンシャー州の農家へ送ってしまいました。
 その光景を見て、いつも大金を手にしてはすぐに使い切ってしまう先生の金銭感覚に悩まされるダブダブは深いため息を吐き、イギリスへ帰ったらまたオシツオサレツを連れてサーカス巡業に出なければならないと言いましたが、真珠を手放す原因を作ったガブガブは至って楽天的でした。
「あぶく銭は、もたないもんさ……あんまり心配しなさんな。ぼくは、お金持になったって、それほどおもしろいとは思わないよ。お金持というのは、とても不自然なことをしなきゃならないものね。」

(訳・井伏鱒二)
| 84oca | ドリトル先生の郵便局 | 20:45 | comments(0) | trackbacks(0) |

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