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解題『ドリトル先生の郵便局』(14)──魔法のキュウリ
 2日目の晩は、豚のガブガブがお話をすることになりました。ジップやダブダブやトートーはガブガブの経験不足や「どの食べ物がおいしい」とかそんな話しかしないに決まっていると反対したのですが、先生はガブガブをかばって話をさせることにします。とは言え、まだ子豚で先生や他の動物たちのように自身の体験談を多く持たないガブガブは、代わりに豚の間に伝わる「魔法のキュウリ」と呼ばれるおとぎ話を披露することにしたのでした。

子豚を可愛がる王妃
子豚を可愛がる王妃
(『ドリトル先生の郵便局』挿絵、ヒュー・ロフティング画)

 昔々、子豚が父親と一緒に森へトリュフ(西洋松露)を掘りに出かけると、子豚がトリュフを掘った穴から何やら話し声が聞こえて来ました。父親は魔法やその手の迷信が嫌いだったので、子豚を連れてすぐにその場を離れました。その日の晩、両親が寝静まった所で子豚は自分が掘った穴の場所まで出かけて行き、一心不乱に穴を掘り始めると地面が割れて子豚は地下へ転げ落ちていったのでした。
 子豚が転落した場所は、スープのどんぶりでした。地下に住み、1日の半分は新しい料理を創作して残りの半分はその料理を食べる料理番小人(Cook Goblins)が宴会を開いていたのです。子豚もごちそうに預かることになりますが、そこへ料理番小人と敵対する毒キノコの精(Toadstool Sprites)が攻めて来ました。子豚は料理番小人に加勢して戦いますが、いくら子豚と言っても毒キノコの精より2倍ぐらい大きいので形勢不利と見たキノコの精は散り散りになって逃げ出しました。
 子豚と料理番小人の楽しい宴会は夜通し続きましたが、子豚は両親が心配するといけないので夜明けまでに帰りたいと言いました。料理番小人は子豚との別れを惜しみ、お礼に一かけらでも地面に埋めて好きな野菜の名前を叫ぶと一面にその野菜が生えて来る不思議な魔法のキュウリ(Magic Cucumber)を贈呈しました。
 数日後、子豚が住んでいる国の隣国が戦争を仕掛けて来たので国民や家畜は全て城内へ退避するようお触れが出ました。子豚と両親も豚小屋を後にしてお城の庭で飼われることになりますが、アイルランドから嫁いで来たこの国の王妃様は子豚が大層お気に召し、子豚にアイルランドの象徴である緑色のリボンを首に巻きペットとして飼うようになったのでした。王様は、王妃様が子豚を可愛がる様子を見てとても嫌そうな顔をしていました。
 4週間が経って隣国の兵糧攻めが続いてお城の食料はすっかり底を尽き、王様は王妃様に子豚をソーセージの原料として差し出すよう命じます。王妃様は大層悲しんで子豚の命乞いをしましたが、聞き入れられません。子豚は今こそ魔法のキュウリを使う時が来たと確信し、キュウリのかけらを庭に埋めて叫びます。

「パースニップ!」

 すると、またたく間にパースニップ(白人参)が城内の庭中を埋め尽くすように生えて来て、飢えていた兵士は栄養満点のパースニップを食べて元気を取り戻し城の外を包囲していた敵軍をあっという間に蹴散らし退却させてしまいました。
 こうして、国に平和が戻ったので王様は王妃様が子豚をペットとして飼うことを許しました。魔法のキュウリを埋めていた場所には宝石を散りばめた豚小屋が建てられ、子豚はいつまでもしあわせに暮らしたのでした。

 南條竹則氏の『ドリトル先生の世界』でも言及されていますが、この話に登場する王妃がアイルランド系というのは豚がアイルランドで伝統的に家畜として重用され、また国民に愛されて来た経緯を表していると読めます。南條氏はこの王妃のモデルをヒューの母親でダブリン出身のエリザベスではないかと見ていますが、筆者はむしろヒューの祖母でティペラリー出身のメアリー・アンではないかと見ています。ヒューが5歳の頃、三兄のエリックと共にイングランド南部のボーンマスに住む祖父のジョン・トーマス宅に預けられていたことは以前にも紹介しましたが「王が豚を可愛がる王妃を見て嫌そうな顔をした」という描写は、国教会信徒であったジョン・トーマスとカトリック信徒でヒューの父であるジョン・ブライアンら子供たちにもカトリックの洗礼を受けさせたメアリー・アンの関係を象徴しているように思えてならないのです。

次に、ガブガブの大好物でもあり魔法のキュウリを使って子豚が生やしたパースニップ(parsnip)は、日本では余り馴染みの無い野菜ですが成城石井などのスーパーでもオランダ原産のものを扱っているので井伏鱒二が「オランダボウフウ」と訳した60年前に比べると日本でも現物を目にする機会は多少、増えているのではないかと思います。もっと詳しく知りたい方には下記のようなサイトも。

パースニップ総合情報サイト Parsnipper

最後に、子豚に魔法のキュウリを贈呈した料理番小人(Cook Goblins)はロフティングの他作品『おかゆ詩集 Porridge Poetry』にも登場するので、同作品の紹介でも改めて取り上げたいと思います。
| 84oca | ドリトル先生の郵便局 | 22:35 | comments(0) | trackbacks(0) |

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