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解題『ドリトル先生航海記』(18)──まとめ
 本作は巻頭こそ「コリンとエリザベスへ」と2人の子供に対する献辞で始まっていますが、発売されるとまたたく間に前作以上の評判を米英の子供たちの間に呼び起こし、翌年には全米児童図書館協会が主催するニューベリー賞の第2回受賞作品となったのでした。
『ドリトル先生航海記』のエンドカード
ドリトル先生航海記』のエンドカード(ヒュー・ロフティング画)

 前作が淡々とした三人称文体で書かれているのに対し、本作ではトーマス・スタビンズ少年を語り部とし、彼が直に見聞きした(世間では何かと変人扱いされることの多かった)ジョン・ドリトル先生の偉大な業績についての記録という形を取っています。このスタイルの違いにより、純朴な童話的世界観の前作『アフリカゆき』と重複する「鳥がバッドニュースを運んで来る」「目的地への到着寸前に遭難」というシチュエーションを上手く別の角度から見せて読者にワンパターンと思わせない工夫が為されているのですが、これは前作を読んでいない新規の読者に対する配慮と取ることも可能です。当のロフティング自身も、2人の子供の為に書いた私的な創作が意外な経過で世に出た『アフリカゆき』は広範な読者層を対象にしたものではないと考えていたらしく、出版社より続編の執筆を依頼されたは良いにしろ最後まで好きになれなかった土木技師を辞めて専業作家となるかどうかの決意はなかなか固まらなかった形跡が見られます。クライマックスで先生が王位を降りてイギリスに帰るか否か苦悩する場面は、ロフティング自身の「本当に専業作家として活動すべきなのか、土木技師として途上国を開拓するのが自分の使命だったのではないのか」と言う逡巡が反映されたものだったのかも知れません。結局のところ、その問いに対してロフティング自身が出した答えは「創作の中で、理想的な開拓を描写する」ことだったと言うのが続巻『郵便局』の端々に強く感じられます。

 本作の後半、特にドリトル先生がシンカロット王として即位して以降の展開はよく島田啓三(1900 - 1973)の漫画『冒険ダン吉』と「先進国の指導者が未開の民に文明的な生活知識を伝授する」と言う植民地主義に肯定的な側面からの類似点が指摘されますが『ダン吉』完結から2年後の1941年、同じ雑誌(講談社『少年倶楽部』)で井伏鱒二訳の『ドリトル先生船の旅』が連載されたことと共に奇妙な運命の巡り合わせと言えるでしょう。

 そして、本作の後半における「未開の地に文明の恩恵をもたらす」と言うテーマは続巻『郵便局』で形を変えて繰り返されることになるのですが『郵便局』は「貧困からの自立」を隠れた主題としてミックスしている点が『航海記』と大きく異なっています。1920年代に列強の植民地や新興国が貧困ビジネスの悪循環に陥っている現場を目の当たりにし、その体験を基に貧困ビジネスの本質とその正しい解法を鋭く描写したロフティングは90年前にあって稀有な感性の持ち主だったことに、現代の読者は驚嘆させられるのです。


The Voyages of Doctor Dolittle - 原文。

『ドリトル先生航海記』についてもっと詳しく知りたい方には、以下のサイトも参考になります。

『ドリトル先生航海記』 ドリトル先生物語全集2こども図書館ドットコム


解題『ドリトル先生航海記』目次
| 84oca | ドリトル先生航海記 | 15:42 | comments(0) | trackbacks(0) |

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