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ある在野の文学研究者の行動記録。

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解題『ドリトル先生航海記』(14)──相次ぐ難題
 無事にロング・アローを救出したものの、クモサル島には相次いで難題が降りかかって来ます。ドリトル先生は動物たちの協力も得ながらそれらの難題を次々に解決し、島民の絶大な信頼を得て行くのでしした。
「恐るべき三人衆」の壁画
「恐るべき三人衆」の壁画
(『ドリトル先生航海記』挿絵、ヒュー・ロフティング画)

 クモサル島はポプシペテル族とバグ・ジャグデラグ族という部族が勢力を二分しています。ロング・アローは、少数派のポプシぺテル族は気立てが良く勤勉なのに対して多数派のバグ・ジャグデラグ族は好戦的でいつもポプシぺテル族の収穫を掠奪するばかりの横暴な集団だと言い、心底からバグ・ジャグデラグ族を軽蔑しているようでした。
 ロング・アローやその道案内をしたポプシぺテルの村民が先生たちに連れられて集落へ戻って来ると、長老は今朝方に風邪をこじらせて亡くなったと知らされました。地下に広大なガスの溜まった空間が有る浮遊島のクモサル島は、どうやら南氷洋に向かって流されているらしく日増しに気温が低下し、風邪が流行していたのです。先生は火を起こして暖を取らせなければいけないと考えますが、クモサル島では誰も火の起こし方を知りませんでした。そこで、古いリスの巣と木片を用意させてこすり合わせ、摩擦を利用して火を起こすと人々は驚きます。それから先生は一晩をかけて火を使って人々に暖を取らせたり、灯りを作らせたり、魚を焼いて食べる方法を教えたりしたのでした。
 翌日、バグ・ジャグデラグ族がポプシぺテルの村を襲撃して来ました。以前にポプシぺテル族が和平交渉の為に使者を送った際は、バグ・ジャグデラグ族はポプシぺテル側の意向を一笑に付しその使者を斧で惨殺してしまったと言います。話し合いが通じない相手であることを聞かされた先生は気が進まないながらも戦うことを決意し、バンポとロング・アローも加勢しました。
 ポプシぺテルの村はたちどころにバグ・ジャグデラグ族の戦士に取り囲まれてしまいますが、へポリネシアが南米大陸から連れてきた黒オウムの大群が参戦して戦況は一転します。黒オウムたちは戦士の耳たぶへ器用に噛み付き、戦士たちはほぼ例外無く三角形のギザギザの刻印を付けられて悶絶し、一斉に退却しました。後年、この耳たぶはバグ・ジャグデラグ族の大きな特徴として語り継がれるようになります。

 そしてジョン・ドリトル、ロング・アロー、バンポ・カアブウブウのそれぞれ異なる人種である3人もその果敢な戦いぶりが後世まで伝えられ「恐るべき三人衆」の壁画と次のような歌が作られたのでした。
 三勇士の歌

ああ、きいてくだされ「三勇士」の歌を、
海辺の崖の上で戦った三人の働きを。
むらがる地バチのようにバグ・ジャグデラグ族が、
山から、岩の上から、崖の上からおりてきた。

この村はかこまれ、垣は破られた。
ああ、もうだめか、町も人間も苦境におちた!
ところが、天はお助けくださろうと、
この村に「三勇士」をお送りくだされた。

ひとりは色が黒い──夜のように黒かった。
ひとりは肌が赤く、山のような背高童子。
だが、大将は白い人で、ミツバチのように丸っこい。
そして、一列にならんだこの「三勇士」。

肩をならべて、なぐったりたたいたり、
阿修羅のように、けったり、かみついたり。
壁のように一列に立ちはだかり、
一撃のもと六人の敵を張り倒す。

ああ、赤は強く、黒はものすごい。
バグ・ジャグデラグはふるえあがって逃げ失せる。
だが、敵方が「用心しろよ!」とおそれたのは、白い人、
ひとかかえの敵をぽんぽん空高く投げとばす。

のちのちまでも、この赤、黒、白の話がでると、
夜中に泣く子も黙るだろう。
そこでみんな、のちのちまでうたおう、「三勇士」の歌を、
海辺の崖の上で戦った三人の働きを。

(訳・井伏鱒二)
 井伏訳の「阿修羅のように」は、原文では"Like demons of fury"とされています。ロフティングは第一次世界大戦の激戦地であった西部戦線で戦争の凄惨な現実を目の当たりにしたことが作家活動に進む直接的契機となっただけ有り反戦と平和への願いを強く持ち続けていましたが、一方で暴力的手段による掠奪や自由な言論・表現を封殺する全体主義への対抗手段は、やはり武力しか無いのではないかと言う諦念にも似た感情を抱き続けていた形跡があり、それは晩年に顕著となるのですがこのエピソードや続巻『郵便局』の後半など1920年代前半の、彼の人生において最も幸福だったであろう時期においてすらも「戦争の無益さ」と「話し合いを否定する脅威への抵抗」と言う半ば矛盾する二つの価値観の葛藤が見て取れることは非常に興味深いものがあります。

 バグ・ジャグデラグ族の襲撃を斥けた先生は翌日、バグ・ジャグデラグの集落を訪ねてポプシぺテルとの講和条約締結を要求しました。抵抗しようにも、集落の周りはあの恐ろしい黒オウムに取り囲まれていたのでバグ・ジャグデラグ族は本気で改心し「今後は未来永劫、ポプシぺテル族から掠奪しない」「互いの部族は、一方が飢饉や災害などの難題に見舞われた場合は協力し合う」という二箇条からなる条約を受け入れます。この条約は「オウム講和条約」と命名されました。
 こうして、長きにわたる部族間の紛争を解決した先生は次に南氷洋に向かって漂流するクモサル島をクジラの群れに頼んで赤道近くまで押し戻すことにしました。適当な浅瀬でガスが溜まった地下空間に穴を開ければ、島は兵糧を止めて固定するだろうと考えたのです。ところが、ポプシぺテルの村では風邪で亡くなった長老に代わる新しい長老を決める選挙が行われていました。そして、選挙により新しい長老に選ばれたのは──。
| 84oca | ドリトル先生航海記 | 20:39 | comments(0) | trackbacks(0) |

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