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解題『ドリトル先生』──幻のパンフレット「ドリトル先生の出来るまで」
 1920年に刊行され、たちまち全米で話題作となった『ドリトル先生アフリカゆき』の反響を受けて、発行元のF・A・ストークスはロフティングに続編の執筆を依頼します。そうして1922年に刊行されたのがシリーズ第2巻の『ドリトル先生航海記』で、ストークスは『航海記』の発売前から大々的にPR活動を行っていました。
 現在では貴重な1922年の案内用パンフレット「ドリトル先生の出来るまで The Making of Doctor Dolittle」は発行から90年余を経た現在、インターネット上で無償公開されています。

「ドリトル先生の出来るまで」(1922年)表紙
「ドリトル先生の出来るまで」表紙(ヒュー・ロフティング画、1922年)


 このパンフレットで注目すべき点は、何と言っても作者であるヒュー・ロフティングの自画像が掲載されていることでしょう。表紙でポーズを取っている豚のガブガブをキャンバスに模写している人物はドリトル先生のように見えなくもありませんが、鼻はあの特徴的な団子鼻でなく尖っていて体格もどことなくスマートなので、ヒューの自画像に違いありません。

ヒュー・ロフティング近影
ヒュー・ロフティング近影


 2ページ目は新聞や雑誌に掲載された『アフリカゆき』の書評。3ページ目は出版社に寄せられた全米各地の読者からのファンレターが掲載されており、6ページ目に『航海記』のあらすじ紹介、7・8ページ目に再び『アフリカゆき』の書評が掲載されています。
 4ページ目にはヒューの経歴紹介と、ニューヨークから1921年頃に引っ越したコネチカット州マディソンに在った新居の様子が掲載されており、アイリッシュ・ウルフハウンドを1頭とカナリアを1世帯などドリトル先生には及ばないながらも、多数の動物を飼っていたことが記されています。5ページ目の自己紹介では「晴れた日は寝室よりも屋外で虫の声を聴きながら寝る方が落ち着く」と、非常にアウトドア志向だったことがうかがえます。

アウトドア志向
アウトドア志向(「ドリトル先生の出来るまで」掲載の
自己紹介より、ヒュー・ロフティング画)


 また、この自己紹介では後年にヒューの評伝を書いたブリッシェン、シュミットの両名がいずれも誤っていたロフティング家の出自に関するヒュー本人の貴重な言及があり「先祖は17世紀に宗教弾圧でアムステルダムを追放された」と述べています。もう少し具体的に言うと長年、カトリック国だったスペインの支配下に在ったネーデルラント、つまりオランダがスペインの支配を脱してネーデルラント連邦共和国として独立し、プロテスタントの一派であるカルヴァン派を国教に定めた際にそれまでの支配層だったカトリックを禁止したことを指しているのでしょう。もっとも、ロフティング家は先祖代々の敬虔なカトリック信徒だったという訳ではないようで、ヒューの祖父であるジョン・トーマスは国勢調査の記載によれば洗礼を受けた教会も妻のメアリー・アンと結婚式を挙げた教会も国教会(アングリカン・チャーチ)でした。しかし、メアリー・アンはアイルランド南部のティペラリー出身でカトリック信徒だったと見られ、ヒューの父である次男のジョン・ブライアンら子供たちは母親の意向でカトリックの洗礼を受けたようです。つまり、ヒューの血統はダブリン出身の純然たるアイルランド人である母・エリザベスと合わせてアイルランド系が4分の3を占めていたことになり、ブリッシェンとシュミットが(ブリッシェンが「母親はイングランド人」、シュミットが「ロフティングは母方の姓」としたのは完全な誤りであったにしても)ジョン・ブライアンの血統をアイルランド系としたのはこの祖母の存在が念頭に有ったのかも知れません。
 ところで、ヒューが言うところの「オランダを追放された先祖」の職業は機械工で、世界の工業史に残る発明をした人物なのですがその話は日を改めて書く予定です。

 次回より、再び『航海記』の解説を再開します。
| 84oca | ドリトル先生 (シリーズ全般) | 17:41 | comments(0) | trackbacks(0) |

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