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解題『ドリトル先生航海記』(3)──偉い大人、偉そうな大人
 パドルビーの町に住む人々から博物学者にして世界最高の獣医であるジョン・ドリトル先生の話を聞いたスタビンズ少年はオクスンソープ通りに面したドリトル家の屋敷を訪ねますが、先生は不在でした。それでも諦め切れず、何日も通い続けてとうとうある日の夕方に激しい雷雨の中で先生とスタビンズ少年は運命的な出会いを果たします。
ドリトル先生とスタビンズ少年の出会い
ドリトル先生とスタビンズ少年の出会い(ヒュー・ロフティング画、
オルガ・フリッカー編『ドリトル先生物語選集』より)

 その月曜日は昼から曇り空で、今にも雨が降りそうな天気でした。スタビンズ少年は父親のお使いでベロス大佐に修繕を頼まれた靴を大佐の家へ持って行き、そのまままっすぐには帰らずこのところすっかり習慣となってしまったのに従いオクスンソープ通りのドリトル家の様子を見に行くことにします。その道すがらスタビンズはベロス大佐に出会うのですが、スタビンズが時間を訪ねると大佐はさも迷惑そうな顔でこう返答しました。
「おまえはそもそも……このわしが、おまえごとき子どもに時間をきかれたとて、それで、わざわざ、外套のボタンをはずせると思うのか。」

(訳・井伏鱒二)
 腕時計が発明されたのは18世紀末と言われていますが、まだ一般には広く普及しておらず懐中時計が主流でした。ベロスは軍人なので懐中時計を持っているのですが、子供に時間を聞かれて懐中時計を取り出すのは軍人のプライドが許さないと言わんばかりの態度に平素から子供扱い、特に坊や(lad)と呼ばれるのが何より嫌いなスタビンズは失望します。
 ベロス大佐と別れてオクスンソープ通りのドリトル家へ差し掛かった時、急に雷を伴う激しい雨が降り出しました。スタビンズ少年が急いで帰ろうと思い、全速力で自宅に向かって走り出した矢先に真っ暗闇で誰かとぶつかります。その相手は、背が低く肥満体で使い古したシルクハットをかぶった紳士でした。
「これが、きみのあやまちであったとすれば、わしのあやまちでもあった……同様に、わしも下をむいておったのだ。」

(訳・井伏鱒二)
この紳士こそ、つい今しがた長期の旅行から帰って来たばかりのジョン・ドリトル先生その人だったのです。
 互いに自己紹介を終え、スタビンズ少年はドリトル先生が自分のことを「トミー」でも「坊や」でもなく「スタビンズ君」と呼ぶことに何よりも好感を抱きました。この場面は、先刻のベロス大佐との対比で「偉そうな大人」と「本当に偉い大人」は全く、根底から違うものだというロフティングの考え方が顕著に表れていると言えるでしょう。

 なお、今回のエントリで使用しているイラストは『航海記』の初版本で使用されたものではありません。『航海記』の刊行後にロフティングが追加で描き足し、生前には未公開となったイラストの内の1点でロフティングの義理の姉妹であるオルガ・フリッカー(Olga Fricker, 1902 - 1997)が編集し、1967年に米英で刊行された『ドリトル先生物語選集 Doctor Dolittle: A Treasury』で初めて収録されたものです。1988年にYearling Booksで『航海記』が復刊された際にも使用されました。
| 84oca | ドリトル先生航海記 | 14:20 | comments(0) | trackbacks(0) |

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