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解題『ドリトル先生アフリカゆき』(12)──まとめ
 1917年に西部戦線の塹壕で生まれ、3年後に思わぬ機会を得て世に送り出された『ドリトル先生アフリカゆき』の物語はまたたく間に全米で評判を獲得します。この成功を受けてヒュー・ロフティングは土木技師の仕事を正式に辞めてニューヨークからコネチカット州のマディソンという町へ引っ越し、専業の児童文学作家になったのでした。
『ドリトル先生アフリカゆき』のエンドカード
ドリトル先生アフリカゆき』のエンドカード(ヒュー・ロフティング画)


 アメリカのストークス版では第10版よりイギリスの小説家、ヒュー・ウォルポール(Sir Hugh Seymour Walpole, 1884 - 1941)が執筆した『アフリカゆき』の解説が巻頭に掲載されています。この解説でウォルポールはルイス・キャロル(Lewis Carroll, 1832 - 1898)の『アリス』やマーガレット・ガティ(Margaret Gatty, 1809 - 1873)、或いはシャーロット・ヤング(Charlotte Mary Yonge, 1823 - 1901)、ジュリアナ・ユーイング(Juliana Horatia Ewing, 1841 - 1885)ら19世紀の代表的な児童文学作家の名を挙げ「ロフティングはこれらの偉大な作家の後継者が現れなかった30年余りの空白期に終止符を打つ真打ちと言える非凡な才能を有している」と激賞しています。

 もっとも、エドワード・ブリッシェン1968年に刊行された評伝で指摘しているように、このウォルポールの解説はあくまでも『アフリカゆき』1巻のみが刊行されていた時点のものであり、その好評を受けて最終的に全12巻と番外編1巻の長大なシリーズ作品に発展した後の現在の視点からの解説ではないことに留意する必要があるでしょう。
 そして、ウォルポールが名前を挙げている(ガティやユーイングは日本では馴染みの薄い作家ですが)キャロルやヤングの作品とロフティングの作品は実際に読み比べてみると、それぞれ作風がかなり違うことに気付くと思います。特に、キャロルがアナグラムや複数の単語を合成する「鞄語」の創出などテクニカルな部分に徹底してこだわり、かつ文章のリズム感を損なわないことに努力を傾注しているのに対して、ロフティングは(少なくとも『アフリカゆき』の頃に関して言えば)素朴で淡々とした文体が大きな特徴となっています。元々、この物語が2人の子供に宛てた手紙という形で創作されたこともあるでしょうしロフティング自身が当初、この物語を思い付いた際には“童話”を志向していた形跡が認められ、結果的にウォルポールが挙げた19世紀を代表する児童文学作家たちの後継者と言うよりも、ヒレア・ベロック(Hilaire Belloc, 1870 - 1953)らユーモア作家のセンスを採り入れてそれまでの児童文学作品に例の無い独自の作風と世界観を創出したのです。ロフティングが何よりもキャロルと対照的なのは、挿絵も自分自身で描いたことでしょう。キャロルが『アリス』の出版に際して挿画家のジョン・テニエル(John Tenniel, 1820 - 1914)と激しいやり取りを繰り返したエピソードは非常に有名ですが、ロフティングは幼少期から山歩きの中で培ったスケッチと土木技師の仕事を通じて習得した作図の技法を駆使して自分で挿絵を描き、これが『ドリトル先生』の世界観を決定的なものにしていると言っても過言ではありません。
 結果的に『アフリカゆき』が2人の子供──エリザベスとコリンのみならず、全米の子供たちの心を捕えて離さなかったことで発行元のストークスは続編の刊行を決定します。そして『アフリカゆき』がロフティングの母国・イギリスでジョナサン・ケープより刊行されたのと同じ1922年に、アメリカでは第2巻『ドリトル先生航海記』が刊行されることになったのでした。


The Story of Doctor Dolittle - 原文。ウォルポールの解説も掲載されています。

『ドリトル先生アフリカゆき』についてもっと詳しく知りたい方には、以下のサイトも参考になります。

『ドリトル先生アフリカゆき』 ドリトル先生物語全集1こども図書館ドットコム


解題『ドリトル先生アフリカゆき』目次
(1)戦場で生まれた物語
(2)小さなドリトル先生
(3)ドリトル先生、動物語を習得する
(4)「いいとも、お嫁にゆきなさい」
(5)オウムのポリネシア
(6)ライオンの大将
(7)オシツオサレツ
(8)人種差別問題
(9)1920年代の人権感覚
(10)海賊の襲撃
(11)ジップのお手柄、そして帰還
(12)まとめ ※本エントリ
| 84oca | ドリトル先生アフリカゆき | 19:25 | comments(0) | trackbacks(0) |

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